チェキで100人100通りのキャリアを作る
■日本人に日本文化のひとつ「日本画」が知られていない
私はペットの犬や猫をメインに描いている日本画家です。日本画というと、白黒の墨絵の掛け軸だったり、江戸時代初期の襖絵など古い作品を想像される方も多いと思います。
けれど、現代にも多くの日本画家が活躍していますし、作家ごとに新しい技法を生み出しています。そもそも明治中頃から西洋の絵と区別するために生まれた言葉が「日本画」ですから。
私の場合は、昔からある硫黄を使って銀箔(ぎんぱく)を硫化させるという技法に、私独自の手法を加え、これを台紙にして日本画を描いていきます。このように、日本画は古墳壁画や絵巻物といった1000年以上も前からの様式を基に、新たな技法、感覚や美意識、表現などの変化とともに、少しずつ変わってきています。
ただ、残念なことに今は、日本人であっても日本画を身近に感じられる機会はとても減ってきています。
そんな事情もあり、私は絵画教室の講師もやっています。教えているのは日本画のほか、パステル画、水彩画、アクリル画、切り絵画で、4~70歳くらいまでの70人くらいです。
特に子どもたちには、自由な発想を伸ばし、自己肯定感を高めることで立ち上がる力・生きる力を育てることを目的としています。よって自由に描いてもらっています。私も教えているというよりも、どんな絵ができるのか「見てみたい」という好奇心の感情の方が強いですね。
絵は自己表現の一つであり、個性の塊です。私は日本画家を職業にしていますが、人間はみんな他の人とはちがうアーティストだと思っています。
■チェキグラファーの第1歩は子ども達に教えてもらった
チェキというカメラがあるということは知っていました。でも、そのカメラを使って何かをやろうとは思いつきもしませんでした。
ところがあるとき、私が参加している起業についての勉強会の仲間から「チェキグラファー講座に参加してみたら」って誘われました。ほかの仲間の多くは、すでに参加していて、実際にチェキを仕事に取り入れている人もいました。そこで私も参加してみることにしたのです。
参加するからには何か得るものを持って帰りたいと息込んで参加したのですが、すぐにチェキグラファーとしての活動が思いつきませんでした。自分の中でどう生かすか考えて、まずは絵画教室の子ども達と遊んでみることにしてみました。
講座の中でもチェキで撮影した写真をデコレーションするという場面があるのですが、子ども達に自分が好きな写真を撮影してもらって、それを台紙に貼って、周りに絵を描いてもらうようにしました。そしたら、これが予想していた以上に楽しくて。
まず、写真を撮影する楽しみ。子どもたちは、自分を撮影するのではなくて、芸能人とかの写真を使おうとするんですよ。その周りに、落書きみたいにドローイングしていくのも楽しい。あ、こんな世界があったのかと。それで自身の作品にも取り入れてみました。
■チェキ日本画の魅力
日本画というのは岩絵具を使うのですが、岩絵具は人物の肌を表現するのが苦手です。だから猫や犬などのペットの絵を描いているのですけど(笑)。岩絵具は、主に鉱石を砕いてつくられた粒子状の絵の具ですから、砂のように粗くて艶のないマットな質感です。人物の肌は滑らかで艶やかですからね。
一方、チェキは人物の撮影にとても向いています。また、チェキの色合いや微妙な曖昧さは、日本画の強い色合いとのコントラストがとてもあっていて、今までにないエモい感じ、独特の世界観を作り出すことができます。
■チェキをパーツにすることで日本画のハードルが下げられた
こんな話をすると、もう何年もチェキで作品をつくっているようですが、実はチェキグラファーの講座を受講したのは最近なんです。コロナで外出が減り、鬱々とした気持ちが蓄積し、創作意欲もなくなっていた頃にチェキの講座に参加させてもらって。一面では助けられたという思いもあります。
色々な人に日本画を知ってもらいたいといつも思っていましたので、チェキはこうした思いを実現するのに本当にいい素材です。実は今度チェキをつかった日本画講座をやります。そこで、子どもたちにも金箔を扱ってもらおうと思っています。子どもが金箔を扱う機会って、そんなに多くないと思いますが、この講座では実際に使ってもらいます。
子どもたちが大人になって日本の文化のひとつである日本画を説明したくても、日本画に触れた経験がなければ、説明できない。日本画は絵具などの画材が高価ですし、技術が難しくて、簡単には経験できないのですが、チェキを日本画のパーツとして使うことで日本画を身近に感じてもらえますし、楽しみながら技術を学ぶこともできます。チェキのおかげで日本画のハードルをグッと下げることができたと、心躍る気持ちです。
■100年後、チェキが日本を代表する文化に
私の作品は「すべての女性は強くて美しい」ということをコンセプトにしていますので、今後は芯のある強い女性を撮影して、たくさんのチェキをつなげながら、もっと大きなサイズの日本画の製作を行なっていきたいと考えています。チェキのおかげで、写真を撮影するワクワク感も楽しめるようになりました。
とは言え、日本の伝統文化である日本画とチェキの組み合わせに違和感を覚える人もいるかもしれません。今まで過去の作家が積み重ねてきたものを壊すなんて持ってのほかだと。
でも、今生きている私たちは長い歴史の中の1ピース。過去の積み重ねがあるからこそ、今の私たちがあり、今ある私たちがいるからこそ、将来がある。
チェキはまだ新しいものではありますが、日本で生まれたものです。ですから100年後チェキが日本を代表する文化のひとつになっているかどうか。日本画のように、新しい世界をつくりだせるかどうか。私たちチェキグラファーの手にかかっていると思います。